メゾソプラノ中森千春~うた日記~

ドイツ音楽と日本抒情歌が大好きな中森千春のつれづれ日記♪

声楽は一人二役

「歌って、楽器より大変ですね」

先日のレッスンで、生徒さんがふとこぼしました。

例えばピアノ。
出したい高さの音の鍵盤をたたけば、必ず音が出ます。
例えばギター。
出したいコードの決められた弦をそれぞれ押さえれば、必ずある和音が鳴らせます。

それは、音を出そうとする側(プレイヤー)と出す側(楽器)が存在しているから、だと思います。
声楽(歌)の場合、音を出そうとするのは自分で、音を出すのも自分です。
声楽は身体が楽器、とはよく言われますが、正確には、プレイヤーであり楽器でもある、のかなと思いました。

正直な話、もともと専攻がピアノだったせいか、ある旋律をいかに「旋律らしく」演奏するのは、歌うよりピアノを弾いた方が楽だったりもします(笑)
それは、(これはかなり乱暴な言い方ですが、)自分が楽器に命令するだけで済むから、とも言えそうです。

声楽は、音を出させる(命令する)行為と、それを受けて表現する行為を、同時進行で行わなければいけない。
それが簡単と感じることもあれば、難しいと感じることもあります。
どちらの行為が勝ってもうまくいかないし、どちらがより重要、というわけでもない。
自分の身体、この一つの身体の中に、命令者と実行者を二人共存させないといけない。
よくよく考えると、難しくて複雑なことをやっているんだな、と感じました。
一つの作品に向き合うとき、ある時は命令者として、あるときは実行者として、それぞれの立場で歌いこんでいくことも、必要なのだと思います。
歌詞を朗読したり、言葉の意味を調べたり、旋律を歌ったり、いろんな表現方法を試してみたり、そうやっていろいろな向き合い方をしていく中で、二役それぞれの存在を意識することが大切なのだと思います。

レッスンでは、楽器はこうで歌う行為はこうで、とその場で簡単に説明しましたが、私自身、歌う行為について深く考えるきっかけになりました。